MEIKYOKU Story at TOYONAKA

作:早瀬 直久(はやせなおき)

Profile

早瀬 直久

作者コメント

ふたりが出会ったのは学生の頃。恋心と季節は巡り、やがて大人になってゆく。
もしこれが映画なのだとしたら、きっとそこに流れていた時間と音楽がある。
クラシックは時間を旅する乗り物なんだと思います。
旋律の船に乗って、記憶をたどって会いにゆく。豊中に住む架空のふたりの物語詩を書きました。

この気持ちを言葉にせずに伝えたい、夏が目を閉じているその隙に。

Insomnia

Episode1

豊中名曲シリーズ Vol.18

Insomnia の記憶」

朝でも夜でもない時間、
瞼の中はいつも夢なのかも知れない。
不規則に打つ柔らかい鉄の音、
呆気なく手をふる窓の景色、
天秤にゆれる心地をどこか愉しみながら、
前を向いて目を閉じてみる。
季節の間を走る電車、 重なる手の上下、
毎日を過ぎる駅の名前ですら新鮮で、
目新しさに立ち向かう勇気をくれたあの日の記憶、恋の音。
ドアの合図を待ちきれない風が、
懐かしいカーテンを一斉に揺らした。

Insomnia 瞼の記憶

休みの時間、昼にだけ流れる教室の音楽、
眩しさに目を細めていた窓側の席から声がする。
聞いたことのある眩しい声。
聞いたことのなかった音楽の話に、
小さく頷いて、大きく傾いた日。
チャイムの音色がいつもと違って聞こえたその日から、
夢中になって話すその言葉の抑揚を、
裸の耳で追いかけていた。
はぐらかすような独特なテンポ、
時折見せる影のコントラスト、
いろんな音が混じっていた。

教室の風景

教室の風景

教室の風景

音楽は反面教師だ、
鏡に映った自分のように逆さまだから、
憧れを抱いているに過ぎない。
そう投げるような声のあと、
レコードに針が落ち、釘づけになった。
突然大人になった日のように、
ぼんやりと燃え尽きていた。
台無しになってもいい、
この気持ちを言葉にせずに伝えたい、
この夏が目を閉じているその隙に。
緑の風の丘の上、
どちらに転んでもいいように、両手を広げていた。

空の風景 緑の丘の風景

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MEIKYOKU Story at TOYONAKA

作:早瀬 直久(はやせなおき)

Profile

早瀬 直久

作者コメント

ふたりが出会ったのは学生の頃。恋心と季節は巡り、やがて大人になってゆく。
もしこれが映画なのだとしたら、きっとそこに流れていた時間と音楽がある。
クラシックは時間を旅する乗り物なんだと思います。
旋律の船に乗って、記憶をたどって会いにゆく。豊中に住む架空のふたりの物語詩を書きました。

美しい沈黙のあと、自分がとけて流れる音が聞こえた。

Pure

Episode2

豊中名曲シリーズ Vol.19

Pure 「緑の向こう側」

駅から伸びる道に、
緑のアーチがつづいている。
想像していたより大きかった手の感触は、
新しい靴のように嬉しい誤算なのだと、
歩き続ける音を頼りに、腕を振っていた。

一点の曇りもない。
青と言えば嘘になる秋空の下、
迷ってもいい緑の真ん中で耳を澄ます。
花言葉に宿る毒も、
こうもりが放つ音の波も、
大昔、すぐそこまでが海だったことも、
ぜんぶ知らない世界で満ち足りている。
自然の強弱には勝てないと項垂れながら、
風に乗って聞こえてくる楽器の音色に、
ひとり耳を赤くしていた。

木漏れ日

落ち葉の絨毯

公園の風景

並んだ木々を眺め、
落ちる葉音を数えながら、
どれくらい時間が経った頃だろう。
もう忘れたと思っていた虫眼鏡を手にして、
青天井の “ YES ” の文字を見つけてくれた。
恋が聞こえる距離、
ベンチの隣で聞かせてくれたおとぎ話は、
子守唄のように目が覚めるまで忘れない。

木々の風景

手を繋いだ街はまだ夕暮れの日曜日。
いつもの踏切はとても寛大になり、
よく知る街を知らない街に変える。
道の反対側を歩くことで誰かを救えるのなら、
そんな思いで夕陽を直視し、
自分がとけて流れる音に耳を傾けていた。

色は光の行為だと思い知った空の紫に、
時計の針で刺される痛みと、
美しい沈黙があることを教わった。
許されるならもう少しのあいだ、
窓の外を一緒に見ていたい。
また来ようと約束をした喫茶店で、
緑の泡が弾け、今日という日が100年の眠りについた。

駅の風景

喫茶店

クリームソーダ

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